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2021/10/27   コロナ関連トピックス   契約関係  

コロナ対応Q&A(企業取引編)

1 質問

当社は、資本金1500万円の企業ですが、この度、コロナウイルス禍による需要の減少から、当社が取り扱っている商品の製造を委託している下請先(資本金1千万円以下の株式会社)との関係で、次の措置を講じたいと思っています。

① 下請先に対して発注した商品について、納期限に先立ち、一部の発注を取り消し、得意先の需要を踏まえて、改めて発注を検討する。

② 下請先に対して発注した商品について、発注の取り消しができない場合には、納品期限を延期し、分割で納品をしてもらう。

③ コロナウイルス禍の感染予防対策のためのコストが経営を圧迫しているため、下請先へ発注している商品の代金について値引きをしてもらう。

これらについて、いずれも下請先は承諾してくれるとは思うのですが、手続について問題がないか教えてください。

 

2 解説

(1)はじめに

   質問内容にある①から③は、いずれも下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)との関係で問題になる行為と思われます。詳細については、次のとおりです。

   なお、下請法の内容や考え方については「下請取引適正化推進講習会テキスト」(令和2年11月、以下「テキスト」といいます。)に詳細な解説がある上、新型コロナウイルス感染症の拡大により影響を受ける下請企業の取引に関しては、中小企業庁と公正取引委員会から「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A」(以下「Q&A」といいます。)が公表されていますので、参考にしていただくと良いと思います。

 

(2)下請法の目的

   下請法は、「下請代金の支払遅延等を防止することによって、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。」とされています。下請法は、もともと独占禁止法の優越的地位の濫用規制の補完法として制定されたものです。下請法に違反する行為は、本来、優越的地位の濫用として独占禁止法の適用対象となり得るものですが、独占禁止法を適用する場合には、優越的地位にあるのかどうか等の評価概念が問題となり、簡易・迅速な処理に馴染みません。そこで、下請事業者を保護する観点から、資本金による形式的な判断により優越的地位に該当するかを区分するとともに、親事業者の違反行為の類型を具体的に定め、それらに該当する行為は原則として濫用行為に該当するといった考え方を採用する下請法が制定されています。

   下請法は、簡易・迅速かつ効果的に下請事業者の利益を確保することを旨としており、令和元年度には7件の勧告、8016件の指導がなされています。

 

(3)下請法が適用される事業者

   下請法では、資本金の大小を基準として親事業者と下請事業者を形式的に認定することとしています。下請法の適用関係は、取引の内容と当事者の資本金の額で決まることになり、具体的には次のとおりとなります。

ア 物品の製造・修理委託、情報成果物作成委託・役務提供委託

(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に係るもの)

  親事業者

 

下請事業者

資本金3億円超

資本金3億円以下(個人を含む)

資本金1千万円超3億円以下

資本金1千万円以下(個人を含む)

 

イ 情報成果物作成委託・役務提供委託

(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に係るものを除く)

親事業者

 

下請事業者

資本金5千万円超

資本金5千万円以下(個人を含む)

資本金1千万円超5千万円以下

資本金1千万円以下(個人を含む)

 

(4)下請法の適用対象

下請法は、「製造委託」、「修理委託」、「役務提供委託」、「情報成果物作成委託」に対して適用されます。

下請法における「製造」には、一般的な製造だけでなく、加工(機械加工、プレス加工、板金加工、製缶加工等)も含まれるとされています。また、一般的な用語では「製造」という表現に馴染まないチラシ印刷等も下請法における製造の概念に含まれますので、注意が必要です。

「役務提供委託」における「役務」というのは、サービスと言い換えて差し支えないと思いますが、運送、仕分、梱包、保守・管理、保管、広告、警備、情報処理等を指します。また、「情報成果物作成委託」における「情報成果物」というのは、テレビゲームやアプリ等のプログラム、テレビ番組、CM、ラジオ番組、映画や放送番組のように映像又は音声等で構成されるもの、ポスター、物品のデザイン、レポート、記事や広告等のように文字や図形、色彩により構成されるものを指します。

本件では、相談者の取り扱っている商品の製造委託が問題となっており、相談者は、資本金1千万円を超える事業者、下請先は資本金が1千万円以下の事業者ということですので、下請法が適用されることになります。

 

(5)親事業者の禁止行為

  ア 概要

下請法では、下請取引で親事業者がしてはならない行為として11の禁止事項(第4条1項及び2項)が定められています。親事業者が禁止される行為は、次のとおりです。

①受領拒否、②下請代金の支払遅延、③下請代金の減額、④返品、⑤買いたたき、⑥購入・利用強制、⑦報復措置、⑧有償支給原材料等の対価の早期決済、⑨割引困難な手形の交付、⑩不当な経済上の利益提供要請、⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直し

    ①から⑦までは該当する行為がなされれば常に下請法違反となるのに対して、⑧から⑪については、これらの行為をすることで下請事業者の利益を不当に害した場合に下請法違反となるという違いがあります。

    このうち、本件で関係するのは、②下請代金の支払遅延、③下請代金の減額、⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直しとなります。

  イ 質問① 納期限に先立つ一部の発注取消について

    親事業者が、下請事業者に責めに帰すべき事由がないのに、商品等の受領前にその内容の変更を行い又は受領後にやり直しをさせることによって下請事業者の利益を不当に害すると、⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直しとして、下請法違反となります。

    ⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直しが禁止されるのは、内容の変更ややり直しによって、下請事業者が途中まで行った作業が無駄になり、又は追加作業が必要となることにより、下請事業者の利益が損なわれるため、これを防止するという目的です。

    こうした目的に照らして、「内容の変更」には、言葉のとおり製品の仕様等を変更することに加えて、発注を取り消すこともこれに含まれるとされています(テキスト83頁)。

また、受領前の内容の変更や受領後のやり直しがあれば直ちに下請法違反ではなく、下請事業者の利益を不当に害することも要件とされています。このため、内容の変更ややり直しのための費用を親事業者が負担する等によって下請事業者の利益を不当に害しないといえる場合には、下請法違反にはなりません。

質問はいずれも、コロナウイルス禍による需要の減少を理由とするものですが、これは、下請事業者の責めに帰すべき事由には該当しません。

したがって、一旦発注した商品について、納期限に先立ち、一部の発注を取り消す場合、親事業者が取り消しまでの間に生じた下請事業者の費用(商品代金ではありません)を負担するのであれば、下請法違反とはなりませんが、これを負担しない場合には下請法に抵触することになります(Q&A問1参照)。

なお、質問では、下請先は、承諾してくれるとのことですが、下請法では、親事業者と下請事業者との間には決定的な力の差があることが前提となっているため、親事業者と下請事業者との間で合意や承諾があったとしても下請法に定める禁止事項に抵触する場合には下請法違反となることに注意が必要です。

 

  ウ 質問② 納品期限の延期について

    親事業者が、下請事業者に責めに帰すべき事由がないのに、商品の受領を拒むと①受領拒否として、下請法違反となります。

    受領拒否とは、下請業者の給付の全部又は一部を納期に受け取らないことですが、発注を取り消すことや、納期を延期することにより下請事業者の給付の全部又は一部を発注時に定めた納期に受け取らないことも含まれると考えられています(テキスト40頁)。

したがって、商品の納品期限を延期し、当初の約定の納品期限に受領しない場合には、①受領拒否として下請法に抵触することになります。

    また、納品期限を延期する場合にはあわせて下請代金についても延期することが多いと思われますが、下請代金について当初合意した期限に支払をしない場合には、あわせて、②下請代金の支払遅延という点でも下請法に違反するおそれがあります。

 

  エ 質問③ 下請代金の値引きについて

親事業者が、下請事業者に責めに帰すべき事由がないのに、下請代金の額を減額することは、典型的な③下請代金の減額として下請法違反となります。

なお、下請代金の減額は、下請事業者の経営を直接圧迫するため、厳しい取り締まりを受ける禁止類型です。公正取引委員会は、下請法に違反した親事業者に対して、違反行為の是正やその他必要な措置をとるべきことを勧告することができ、勧告した場合は原則として事業者名、違反事実の概要、勧告の概要等を公表することとされていますが、企業名が公表された事案の大多数は下請代金の減額の事案です。令和元年には7件の勧告がなされていますが、このうち6件が下請代金の減額が問題となった事案でした。

したがって、コロナウイルス禍の感染予防対策のためのコストが経営を圧迫しているという事情は理解できるところではありますが、とはいえ、それは下請事業者に起因するものではありませんので、下請先へ発注している商品の代金について事後に値引きを求めることは、③下請代金の減額として下請法に抵触することになります。

 

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