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2020/04/12   新法・法改正・判例紹介トピックス   法改正  

遺産分割前における預貯金の払戻し制度


新設

民法

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)

民法第909条の2

 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令

 民法第909条の2に規定する法務省令で定める額は、150万円とする。

家事事件手続法

第200条3項

 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。

1現行制度の問題

最大決平28.12.19(民集70巻8号2121頁)により、預貯金債権も遺産分割の対象に含まれることになりました。

同決定前は、銀行実務はともかく、法的には、預貯金債権は相続開始と同時に各共同相続人の相続分に応じて当然に分割され、各共同相続人は自己の取得分については単独で預貯金を引き出すことが可能でした。
これに対し、同決定後は、遺産分割までの間、共同相続人全員の同意を得なければ、預貯金を引き出せないことになりました。しかし、これでは、被相続人の葬儀費用、被相続人の扶養者の当面の生活費等、遺産分割前に預貯金を引き出す必要があるときに問題が生じてしまいます。
そこで、本条を新設し、各共同相続人が、遺産分割前に、単独で、一定額の範囲で預貯金を引き出せるようにしたのです。

2 改正概要

1) 引き出せる額(民法第909条の2前段)
1つの口座から各共同相続人が単独で引き出せる預貯金の額は、以下の方法で計算します。

[死亡時の預貯金の額] × 1/3 × その共同相続人の法定相続分

ただし、一つの金融機関からは、150万円までの引き出ししかできません。一つの金融機関に複数の口座がある場合でも、合計150万円が上限となります。
ここで、1つ例を考えてみましょう。

お父さんが亡くなったとします。お母さんの法定相続分は1/2、子供たちの法定相続分はそれぞれ1/6です。

お父さんが預貯金額と、各共同相続人が引き出せる金額の例をみてみましょう。赤文字部分は、150万円の上限規制です。

 
金融機関 預貯金額

預貯金額

お母さんが引き出せる額

預貯金額×1/3×1/2

子供たちが引き出せる額

預貯金額×1/3×1/6

A銀行 ア支店 900万円 150万円 50万円
イ支店 360万円 60万円 20万円
  *)合計150万円まで! --
B銀行 カ支店 1800万円 150万円 100万円
C銀行 サ支店 4500万円 150万円 150万円

 


2)各自が引き出せる額では足りない場合(家事事件手続法第200条3項)

上記のケースで、お父さんに6000万円の借金があり、1ヶ月後が返済日だったとします。長男と長女は、銀行から計6000万円を引き出して返済したいと考えています。しかし、お母さんが認知症で成年後見人がいないため、銀行からの預貯金の引き出しについて、法律上有効な同意をすることができません。また、二男が音信不通で連絡がとれません。という例を考えてみましょう。
このような場合、従来は、銀行から取り急ぎ6000万円を引き出す(これを、遺産分割調停・審判を本案とする保全処分、といいます。)ためには、「急迫の危険を防止」する必要という、ハードルの高い条件を満たさなければなりませんでした。
しかし、今回の改正により、㋐遺産分割の調停・審判の申し立てがされていて、㋑預貯金を引き出す必要があると認められれば(例:相続債務の弁済、相続人の生活費不足)、㋒他の共同相続人の利益を害さないかぎり、預貯金の引き出しが認められることになりました。
したがって、長男と長女は、①お父さんの死亡時の住所地を管轄する家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたうえで、②当該家庭裁判所に、銀行から計6000万円を引き出す保全処分を認めてくれるよう、保全命令申立てをすることになります。

 

3)引き出した場合の効果(民法第909条の2後段)
民法第909条の2前段に基づいて各共同相続人が引き出した預貯金については、その共同相続人が、遺産の一部を分割して取得したものとみなされます。したがって、各共同相続人は、遺産分割協議後、具体的相続分と引き出した金額の差額を取得することになります。引き出した金額が具体的相続分を超える者は、当該超過額について清算する義務を負います。
上記のケースで考えてみましょう。お父さんの預貯金(=債権)は合計7560万円、借金(=債務)は6000万円です。差し引き計算した相続財産は、債権1560万円になります。長女が保全処分として6000万円を引き出したうえ返済しており、その後、お母さんと子供たちの間で、法定相続分どおりに相続する旨の遺産分割協議が成立したとします。

 

 

お母さん

長男

長女

二男

法定相続分

1/2

1/6

具体的相続分

780万円

260万円

実際に引き出していた額

150万円

300万円

6000万円

*)借金の返済のため

×

これからもらう額

630万円

-40万円

260万円

260万円

 

赤文字部分を合計すると、1560万円になります。

多く引き出しすぎていた長男は、お母さん・長女・二男に対し、40万円を交付する義務を負います。実務的には、遺産分割協議の中で、この清算義務についても、誰にいくら交付するのか、内容を明確に定めることになるでしょう。

 

遺産分割前の預貯金の引き出しにあたっては、後の遺産分割協議を見据え、無用なトラブルを招かないよう注意する必要があります。亡くなった方の預貯金を引き出す必要が生じた場合には、できるだけ早い段階で弁護士法人アステル法律事務所にご相談ください。

 

 

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